大判例

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東京地方裁判所 平成9年(特わ)442号 判決

一被告人

本籍

東京都足立区六町三丁目三番

住居

東京都足立区六町三丁目三番一九号

会社役員

佐藤和夫

昭和一八年五月九日生

本籍

東京都足立区六町三丁目三番

住居

東京都足立区六町三丁目三番一九号

会社役員

佐藤肇子

昭和一九年三月二六日生

出席検察官 藤原光秀

弁護人(私選)木ノ内建造

主文

1  被告人佐藤和夫を罰金二四〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、三万五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

2  被告人佐藤肇子を懲役一年に処する。

被告人佐藤肇子に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

【犯罪事実】

被告人佐藤和夫(以下被告人和夫という)は、東京都足立区六町三丁目三番一九号に居住し、同区南花畑二丁目一〇番一二号において、「佐藤商店」の名称で婦人物ハンドバックの製造卸売業を営んでいたものであり、被告人佐藤肇子(以下被告人肇子という)は「佐藤商店」の経理全般を統括していたものである。

被告人肇子は、被告人和夫の業務に関し、被告人和夫の所得税を免れようと考え、売上の一部を除外し、仕入を水増しして計上するなどして、所得を秘匿した上、次のとおり被告人和夫の所得税を免れた。

第一  被告人肇子は、平成四年分の被告人和夫の所得金額が八七二三万七四四六円であったにもかかわらず、平成五年三月三日、東京都足立区綾瀬四丁目一四番一〇号足立税務署において、足立税務署長に対して、そのみなし法人所得金額が二七七万四四二〇円、その総所得金額が六五〇万三七八〇円であり(別紙1の所得金額総括表及び修正損益計算書参照)、これに対する所得税額が六五万五九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成九年押第一〇八八号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、被告人和夫の平成四年分の正規の所得税額三八一六万一九〇〇円と申告税額との差額三七五〇万六〇〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れた。

第二  被告人肇子は、平成五年分の被告人和夫の所得金額が五五九六万四二八二円であったにもかかわらず。平成六年三月二日、前記足立税務署において、足立税務署長に対して、その所得金額が七九一万一二七三円(別紙2の修正損益計算書参照)であり、これに対する所得税額が八七万九〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成九年押第一〇八八号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、被告人和夫の平成五年分の正規の所得税額二三〇三万四五〇〇円と申告税額との差額二二一五万五五〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れた。

第三  被告人肇子は、平成六年分の被告人和夫の所得金額が九七二八万四五一四円であったにもかかわらず、平成七年三月七日、東京都足立区千住旭町四番二一号足立税務署(平成六年五月二三日前記場所から移転)において、足立税務署長に対して、その所得金額が一七一九万七四三六円(別紙3の修正損益計算書参照)であり、これに対する所得税額が三三二万五七〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成九年押第一〇八八号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、被告人和夫の平成六年分の正規の所得税額一五八万六〇〇〇円と申告税額との差額三八二六万〇三〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れた。

【証拠】(括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)

全事実について

一  被告人両名の各公判供述

一  被告人和夫の検察官調書(乙三)

一  被告人肇子の検察官調書(四通、乙六ないし九)

冒頭の事実について

一  被告人和夫の検察官調書(乙二)

一  被告人肇子の検察官調書(乙五)

一  捜査報告書(甲三〇)

第一、第二、第三の各事実について

一  売上調査書、仕入調査書、租税公課調査書、荷造運賃調査書、水道光熱費調査書、旅費交通費・通信費調査書、接待交際費調査書、損害保険料調査書、消耗品費調査書、福利厚生費調査書、外注費調査書、雑費調査書、専従者給与調査書、事業専従者控除調査書

一  捜査報告書(二通、甲三、六)

第一、第二の各事実について

一  利子割引料調査書

第一、第三の各事実について

一  修繕費調査書、給料賃金調査書

第一の事実について

一  事業主報酬調査書、みなし法人所得調査書、配当収入調査書、給与収入調査書、給与所得控除額調査書

一  平成四年分の所得税の確定申告書一袋(平成九年押第一〇八八号の1)

第二、第三の各事実について

一  減価償却費調査書

一  青色申告特別控除額調査書

第二の事実について

一  捜査報告書(甲一八)

一  平成五年分の所得税の確定申告書一袋(平成九年押第一〇八八号の2)

第三の事実について

一  平成六年分の所得税の確定申告書一袋(平成九年押第一〇八八号の3)

【法令の適用】(以下刑法は、平成七年法律第九一号附則二条一項本文により、同法による改正前のものを適用する。)

一  罰条

被告人肇子

判示各所為 所得税法二三八条一項

被告人和夫

判示各所為 所得税法二四四条一項、二三八条一項

二  刑種の選択

被告人肇子

各罪 いずれも懲役刑選択

三  併合罪の処理

被告人肇子 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情が重い第三の罪の刑に法定の加重)

被告人和夫 刑法四五条前段、四八条二項

四  労役場留置

被告人和夫 刑法一八条

五  刑の執行猶予

被告人肇子 刑法二五条一項

【量刑の事情】

本件は、婦人物ハンドバックの製造卸売業を営む被告人和夫の業務に関して、その妻であり被告人和夫の従業者である被告人肇子が、売上を除外し、架空の仕入を計上するなどして、三年分にわたり、合計九七九二万一八〇〇円の所得税を免れたという事案であり、ほ脱額は低額であるということはできず、正規の税額に対してほ脱額が占める割合も、九〇パーセントを超えており、到底見過ごすことができるものではない。被告人肇子は、被告人和夫の業務に関して、経理事務を担当していたところ、経理処理の不正が発覚しないように、勘定科目相互の収支のバランスを考えて、本件各年の被告人和夫の所得金額について、売上の一部を除外し、仕入を水増しして計上していたほか、平成五年分については、外注費を水増しし、平成六年分については、期末商品棚卸高を過小に計上していたのであり、このような所得の秘匿方法も決して軽視できるものではない。

他方において、被告人和夫は、免れていた所得税の本税を全て納付し、延滞税、加算税等については、平成一三年までの間分割して納付することとしているなど、本件により、税法上の経済的な制裁を受けており、被告人肇子は、業績を挙げてきた被告人和夫の所得について、経理事務を行い、昭和六二年までは適正な確定申告をしている。また、被告人両名は、本件について反省の態度を示しており、本件を契機として、被告人和夫が行ってきた婦人物ハンドバックの製造卸売の事業を法人化し、今後、脱税行為を行わないようにするため、税理士の指導を受けていく旨述べており、その税理士も適切な指導をしていく旨申し出ている。これらの事情に加え、被告人両名は、少ない資金から婦人物ハンドバックの製造卸売の仕事を始め、被告人和夫が優れたデザインを考案し続け、被告人肇子がこれを支えて、両名で家業に勤しんだことから、経済の大きな変動にも耐え、堅実に業績を伸ばし、事業を大きな収益を得るまでに成長させているなど、被告人両名にとって有利な事情もある。

そこで、これらの事情を総合して考慮し、被告人和夫を主文の罰金刑に処し、被告人肇子を主文の懲役刑に処した上、同被告人に対して、その刑の執行を猶予することとした。

(裁判官 山口雅髙)

別紙1

所得金額総括表

〈省略〉

修正損益計算書

〈省略〉

別紙2

修正損益計算書

〈省略〉

別紙3

修正損益計算書

〈省略〉

別紙4

ほ脱税額計算書

佐藤和夫

(1) 平成4年分

〈省略〉

(2) 平成5年分

〈省略〉

(3) 平成6年分

〈省略〉

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